ビットコインの時代(4) ~お金の流れの多様化~

お金が社会のインフラだとすれば、「お金の流れの仕組み」はインフラを活用した技術のようなもので、市場経済に大きく影響する。たとえば住宅ローンという技術が発明されていなかったら、多くの人は長年にわたりお金を貯めて、その後にようやく住宅を購入することになるだろう。あるいは住宅は賃貸が当たり前の社会になっていたかもしれない。いずれにせよ住宅ローンという技術があるからこそ、いまの住宅市場というものが成立しているわけだ。
ビットコインはお金だが、ビットコインを支えるブロックチェーン技術はICOという新たなお金の流れの仕組みをもたらした。最終回である今回は、株式会社からクラウドファンディングやICOといった、お金の流れの仕組みを概観していこう。
株式会社という発明
17世紀初めに、イギリスやオランダで東方の国々と交易をする「東インド会社」が生まれた。東インド会社は投資家たちの共同出資により事業が営まれており、利益は出資比率に応じて投資家たちに分配された。これが現代でいう株式会社の原型となった。
株式会社という仕組みはよくできている。一人の投資家では支えられない規模の事業でも、多くの投資家が集まれば支えられる。有限責任とされており、企業が倒産しても投資家は債務を負わず、出資したお金を失うだけである。リスクをとりやすいわけだ。
とはいえ事業家としては、株式会社という仕組みはそれなりに「重い」。設立には種々の手続きや費用が必要だし、取締役会や株主総会のような意思決定の機会を開かねばならない。一度きりのプロジェクトには向いていないし、投資家は良くも悪くも株主として経営に関与してくる。会社の形態には、合同会社をはじめ株式会社ではないものもあるが、以上の点についてはおおむね同様である。
軽快なクラウドファンディング
この点、クラウドファンディングは軽快だ。たとえば購入型のクラウドファンディングは次のようなものだ。事業家は、新しい商品の作成のために、WEB上にて一口1万円で出資を1,000口募る。その商品を欲しい人は、1万円を払ってクラウドファンディングに参加する。そのような出資者が1,000人集まったら、事業家は商品を1,000個作成して出資者に渡す。
事業者が他者からお金を集めるという点は、株式発行とクラウドファンディングは同じだ。しかしクラウドファンディングは株式発行と違って会社を設立するものではなく、また一度きりの事業に向いており、出資者が事業の運営に関与してこない。このような違いがあるからこそ、クラウドファンディングは新たな資金調達の手法として価値が高い。「新作アニメのPVを作る」や「海辺の町にシェアリングスペースを作る」といったニッチな企画に、誰でも少額から出資できる。お金の流れ方が多様化すると、これまでできなかった面白いことができるようになる。
コイン発行による資金調達
ビットコインの登場後、さまざまなコイン(あるいはトークンと呼ばれる同様の暗号資産)が世に生みだされた。2017年にはICO(Initial Coin Offering)という手法でコインを世にリリースするケースが多くあった。これは遊園地を造りたい者が、造る前に優待チケットを広く売って、そのお金で遊園地を造り始めるようなものだ。
一般的には、事業家はホワイトペーパーという企画書のようなものを書いて、コインを発行する。そして世界中の投資家がコインを買う。小額からでも買える。事業家はコインを売ったお金でサービスを作りはじめる。コインはそのサービスで何かしら使用できる設定のことが多い。
一時期ICOで問題視されたのは、コインを売るだけ売ってサービスをまともに作らない事業家が頻発したことだ。現在、日本ではICOへの規制は強化されており、ICOの実施はきわめて困難な状況になっている。簡単にいうと、投資性のあるコインは一項有価証券と位置付けられ、免許をもった証券会社でないと売買できないようになったのだ。そこにはもう世界中の小口投資家を相手にダイレクトな資金調達ができるICOのメリットはない。
法による禁止から、自由市場による選別へ
ICOでは集めたお金を持ち逃げする事業家が問題となった。皆がそうするわけではないのに、いま日本の法律は事実上ICOを禁止したようになっている。しかし投資家からお金を集めたのにロクにサービスを開発しないケースは、ICOでない資金調達でも起こることだ。しかもブロックチェーン上で行うICOは、持ち逃げを法律ではなくコードで制御できるのだ。
具体的には、事業家はICOでコインを発行するときに、一定割合の出資者が合意しないと出資金が引き出せない仕組みにすればよい。出資者たちは事業家を監視して、きちんと事業を進めているようなら、その都度、事業家がお金を引き出せるようにする。これはブロックチェーン上でそのようにスマートコントラクトのコードを書けば可能だ。ブロックチェーンが改竄に強いことと、コードを公開することで、この仕組みはトラストレスに運行できる。法律は持ち逃げを禁止するだけだが、コードは持ち逃げをできなくする。コードのほうが強力で、しかも一律禁止のデメリットをともなわない。
ICOをする事業家がそうした仕組みを採用しているなら、出資者は持ち逃げを止められるので、安心してコインを買えばよい。採用していないなら、持ち逃げのリスクがともなうので、それは出資者が自己責任で判断すればよい。法律ですべてを禁止するのではなく、自由市場でダメなものを選別するわけだ。
法律という社会管理の手法は、イノベーションが多く生まれる時代にそぐわないことが多い。一度おかしな法律ができると、なかなか変わらないし、変わるにせよ時間がかかってしまう。変化のスピードが速い時代には致命的だ。
ビットコインは多様なお金が併存する時代を切り拓いた。ビットコインを支えるブロックチェーン技術は、ICOという新たな資金調達の手法をもたらした。こうした多様性の広がりを社会が受け入れられるなら、我われはその果実を十分に享受できるだろう。そのような時代の訪れを期待しつつ、ビットコインの時代と題したこの連載を閉じようと思う。
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執筆者
坂井 豊貴
慶應義塾大学経済学部教授、(株)デューデリ&ディール・チーフエコノミスト。ロチェスター大学Ph.D.(経済学)。著書に『多数決を疑う』(岩波新書、高校教科書に掲載)、『マーケットデザイン』(ちくま新書)、『暗号通貨vs. 国家』(SB新書)ほか。現在、東京経済研究センター理事(財産管理運用担当)を併任。Twitter: @toyotaka_sakai