仮想通貨(暗号資産)関連の改正法が成立

2019年5月31日、仮想通貨/暗号資産に関する改正法案が参議院を通過しました。改正法は公布から1年以内に施行されることとなります。仮想通貨/暗号資産に関する法規制は2017年4月にスタートしましたが、来春の改正法の施行に伴い規制の在り方は大きく変わることとなります。
改正法の概要
改正法の概要は以下のとおりです。
資金決済法改正
まず、仮想通貨から暗号資産へ呼称は変更されるものの、これまでの仮想通貨の定義がそのまま踏襲されるため、法解釈には影響はなく、この変更は象徴的な意味を有するにとどまります。(以下、本稿では暗号資産に呼称を統一。)
次に、暗号資産カストディ業者(暗号資産ウォレット業者ともいう。)に対する規制の導入は、これまでの暗号資産ビジネスに大きな影響を与える可能性があります。
現行の資金決済法においては、暗号資産の売買・交換等の機能がないウォレットを用いて業者が秘密鍵を管理して顧客の暗号資産を管理するサービスを行っても、暗号資産交換業には該当しません。しかし、今般の法改正においては、このような暗号資産カストディ業務を暗号資産交換業の対象とすることとなりました。
具体的には、「他人のために暗号資産の管理をすること」を業として行う場合には、暗号資産の売買等を伴わない暗号資産カストディ業務についても暗号資産交換業に含まれます。
ここで問題となるのは、どのような形態又は仕様のウォレットであれば「他人のために暗号資産の管理をすること」になるのかという点です。
例えば、スマホアプリとして提供されるウォレットであって、秘密鍵をユーザーのみが保有するウォレットでは、アプリ提供者は暗号資産を移動させることはできないため、「他人のために暗号資産の管理をすること」には該当しないと考えられます。一方、業者の側で秘密鍵を管理し、ユーザーから預かった暗号資産を事実上移転できるのであれば、上記定義に該当します。
問題はその中間にある形態であって、たとえば3本のマルチシグで、顧客、暗号資産取引所、カストディ業者で1本ずつ保有し、そのうち2本で暗号資産の移動ができる場合に、当該カストディ業者に規制がかかるかなどが問題となります。
暗号資産ウォレットについては様々な形態があり、秘密鍵の管理方法も何種類もの方法があるため、より具体的な基準がガイドライン等で明確化されることが望まれます。
また、暗号資産交換業者のビジネスにおいて特に影響が大きいのは、暗号資産交換業者がユーザーの暗号資産をホットウォレットで管理する場合には、同種・同量の暗号資産(履行保証暗号資産)を別途、自社のコールドウォレットで保有することとされた点です。
暗号資産交換業者の管理するホットウォレットがハッキング被害にあった場合でも、バックアップの暗号資産が保有されていることから、ユーザーにとっては、暗号資産交換業者に暗号資産を預けることのリスクが一定程度低減されることとなります。他方、暗号資産交換業者は暗号資産買いの自己ポジションを常に持ち続けることとなるため、暗号資産の価格が下落した場合の価格リスク(ひいては財務リスク)を負い続けることとなります。
暗号資産デリバティブ取引等のヘッジ手段が未発達な現状では、全暗号資産交換業者に同一方向の価格リスクを負担させることが果たして規制の在り方として健全なのか疑問もあります。国債等の安全資産の別途保有や暗号資産に関する保険等を利用する等の選択肢も残すべきであったようにも思われます。
金商法改正
まず、暗号資産デリバティブ取引については、これまで金融規制の規制対象とされていませんでした。例えば、海外の取引所が100倍を超えるレバレッジの暗号資産先物証拠金取引を日本居住者に提供しても、金融規制が及ぶことはありませんでした。しかし、今般の法改正により、暗号資産が金融商品の一つとして位置付けられることとなったため、暗号資産先物証拠金取引を含む暗号資産デリバティブ取引は金融商品取引法の適用対象となります。
これにより、暗号資産に関する店頭デリバティブ取引又はその媒介、取次ぎを業として行うことは、第一種金融商品取引業に該当し(金商法2条8項4号、28条1項2号)、いわゆるFX業者と同様、金融商品取引業としての登録を受ける必要が生じます。
なお、デリバティブ取引については、業規制の適用除外が一定の範囲で認められており、例えば、金商法上のデリバティブ・プロを相手方として行う取引については金融商品取引業の登録なしに行うことが可能です。また、証拠金取引に関するレバレッジ倍率については今後の政府令で定められることになるが、2倍から4倍の間になる可能性が高いと考えられます。
次に、セキュリティトークン(収益分配を受ける権利が付与されたトークン。デジタル証券とも呼ばれる。)に関する規制が導入されたことも今回の法改正の重要ポイントの一つです。
これまでセキュリティトークンについては、暗号資産としての性格と有価証券としての性格を併せ持つことから、資金決済法及び金商法上の位置付けが必ずしも明確ではありませんでした。
今回の法改正では、「電子記録移転権利」という概念を導入し、金商法の適用対象となるトークンの範囲が明確化されました。同時に、資金決済法改正法では、「暗号資産」の定義から電子記録移転権利を除外することにより、電子記録移転権利に該当するセキュリティトークンを資金決済法の適用対象としないことを明確化しました。
このように、電子記録移転権利と暗号資産を明確に区分して、規制の重畳適用がないことが明確化されたことは、ビジネスの不確実性を減らすものであり積極的に評価できます。
電子記録移転権利の定義は複雑ですが、概ね、集団投資スキーム持分(ファンド持分)や信託受益権などの第二項有価証券(みなし有価証券)のうち、デジタルトークン化されたものをいいます。電子記録移転権利に該当する場合には、株式や債券と同様に第一項有価証券として扱われます。
第一項有価証券については、原則として、50人以上を相手方として募集を行うと開示義務が発生することから、勧誘対象範囲は相当狭くなってしまうでしょう。このような新規制の下で、セキュリティトークンに関するどのようなビジネスが可能かについて国内外の関心が集まっているところです。
<デジタルトークンの法的位置付け>
最後に、暗号資産を用いた不公正取引について規制が導入された点について触れたいと思います。
暗号資産の取引においては、これまで、仕手グループによる相場操縦や暗号資産の価格を変動させるため虚偽の情報を流す風説の流布が横行していると言われてきました。このような行為は暗号資産市場の健全性を害するため、罰則付きで禁止されることとなりました。
規制内容は以下のとおりです。
まとめ
以上のとおり、今般の法改正により、暗号資産に関する法規制は全般的により強化する方向で整備されることになりました。このことは、暗号資産に関する取引が本格的な金融規制を必要とするだけの社会的プレゼンスを有することとなったことの表れともいえるでしょう。
その意味で暗号資産関連ビジネスは今後さらに金融ビジネス色を強めていくこととなるものと思われます。既存の金融機関や機関投資家にとっては参入しやすい市場となる一方、スタートアップ企業がビジネスを展開するには相当のハードルがあることになるでしょう。
このため、スタートアップによるブロックチェーンビジネスは金融分野以外にシフトしていく可能性が高いのではないでしょうか。
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執筆者
河合 健
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー スタートアップから大手金融機関まで広くフィンテックに関連する各種のリーガルアドバイスを行っています。仮想通貨及びブロックチェーンに関して、特に多くの案件を取り扱うほか、仮想通貨業界団体の法律顧問を務め、また、行政機関の主催する勉強会や研究会の委員を務めるなど内外の公的機関等への政策アドバイスにも積極的に取り組んでいます。