イーサリアムでよく聞く「The Dao」とは?仕組みや特徴から「事件」概要について紹介しています。

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イーサリアムのプラットフォームに構築されたプロジェクトとして、耳にする機会が多いのが「The Dao」です。

これまでにない新たな考え方によって成り立つThe Daoは、投資家からも大きな注目を集めました。

しかし、The Daoは魅力的なプロジェクトでありながらも、The Dao事件という大きな事件を引き起こすきっかけとなったことでも知られています。

ここでは、The Daoの仕組みやThe Dao事件の概要などを詳しく解説します。

1 The Daoについて

The Daoとは、「自律分散型組織」を意味する「decentralized autonomous organization:ディセントラライズド・オートノマス・オーガニゼーション」の略称です。

イーサリアムのプラットフォームにおいて分散型投資ファンドを構築することを目的としたプロジェクトで、2016年にイーサリアムのメンバーによって発足し、その後、ドイツにある「Slock.it」が開発を行いました。

自律分散型組織には、主に以下のような特徴があります。 

 ・個人がそれぞれに決定権を持っている

 ・組織のトップに立つ管理者や上司がいない

 ・ITツールなどを用いて透明性の高いやり取りを行う

 ・全員で情報を共有し、目的の達成を目指す

 ・組織に関わる全員が経営に携わる

 

上記の特徴からもわかるように、The Daoは、投資家から集めた資金の使い道を投資家の投票によって決める「非中央集権型」であることが大きな特徴です。

一般的な投資ファンドは、投資会社が決定した方法で資産運用を行う「中央集権型」のため、The Daoのように投資家ひとりひとりが運営に携わって資金使途を決める方法は新しい考え方であるといえます。

The Daoは、2016年5月にICO(Initial Coin Offering:イニシャル・コイン・オファリング)によってわずか28日間で約1207万ETHもの資金調達を成功させました。

当時のレートに換算すると150億円以上にも上る資金調達額は、大きな話題を呼び、The Daoを世に知らしめるきっかけとなりました。

ICOでは、The Daoの独自トークンであるDAO(ダオ)を発行します。

投資家がETH(イーサリアム)を用いてThe Daoに投資をすると、1ETHあたり100DAOに交換されました。

投資家は、DAOの保有率に応じて、The Daoが得た利益の一部を報酬として受け取ることができるほか、DAOを高値で売却し、その差益を得ることも可能です。

2 The Daoの仕組み

 

ここからはThe Daoの仕組みについて、さらに詳しく解説していきます。

2.1 仕組み

The Daoは、イーサリアムのプラットフォーム上でスマートコントラクトを利用しています。

スマートコントラクトとはインターネットやシステムを介した商取引のことで、さまざまな契約を自動で賢く行うのが特徴です。

たとえば、自動販売機で特定の飲料水を購入したいユーザーが「自動販売機に必要な代金を投入する」「希望の商品ボタンを押す」というふたつの動作を行うことで、自動販売機が特定の商品を提供し、投入された金額に応じて差額を返金することもスマートコントラクトのひとつといえます。

つまり「契約」という言葉からイメージされる書類上の契約だけでなく、幅広い取引や決済なども含まれます。

The Daoの場合、スマートコントラクトを利用することで、自動的にサービスを運営することが可能となるため、サービスの維持コストや人件費の削減につながります。

また、イーサリアムのブロックチェーンを用いて世界中に分散してプログラム処理を行うため、ハッキング被害に遭うリスクを減らすことも可能です。

その反面、万が一プログラムに不具合が生じてしまっても第三者が止めることができない点が課題として考えられるでしょう。

2.2 提案フェーズ

前述したように、The Daoは自律分散型組織であるため、The Daoに投資をしてDAOを保有している投資家自身が、資金の投資先を提案・決定する権利を持っています。

DAO保有者であれば誰でも投資先を提案することができますが、それを決定するのはDAO保有者の中でも「キュレーター」と呼ばれるメンバーに限ります。

キュレーターは、DAO保有者からの投票によって選出され、主にDAO保有者が投資先として提案した情報を整理・管理し、The Daoのネットワークで共有する役割を持ちます。また、提案者が実在するかどうか確認するほか、提案された内容を精査し、投資先に値するかどうかを見極めるのもキュレーターの役目です。

したがって、仮に50%以上ものDAOを独占するユーザーが、不正にETHを取得することを目的として、ETHを指定アドレスへ送信するよう提案したとしても、キュレーターの入念なチェックにより、不正行為を未然に防ぐことができるのです。

DAO保有者による投資先が提案されてから成立するまでには、以下の6つの手順があります。

(1)DAO保有者が投資先の提案を行う

(2)キュレーターが提案された情報を精査する

(3)キュレーターによる承認後、ホワイトリストに登録される

(4)DAO保有者による議論が行われる

(5)DAO保有者による投票が開始される

(6)多数決で可決すると、提案者と契約が成立する

これらの手順を経て提案が可決するまでには、少なくとも約7週間が必要です。投票時にはDAO保有者全員が有権者として認められ、それぞれが保有するDAOを用いて投票が行われます。たとえば、500DAOを保有する有権者は、500DAOを500票として使用することができますが、あくまで票として扱われるため、この有権者が500DAOを出資する訳ではありません。

投票により契約が成立すると、契約者は、ETHによってあらかじめ希望していた額の出資を受けることができます。

2.3 配当の分配

 

提案が可決されると、The Daoのスマートコントラクトにより、RT(Reward Tokens:リワード・トークンズ)と呼ばれる報酬トークンが発行されます。

RTは出資者の出資額に応じて配布され、契約者の利益に準じて配当が支払われる仕組みです。仮に、可決した投資先に10DAOを投資したとすると、10DAOに応じたRTが配布され、配当はRTに準じて支払われます。

配当が支払われる間隔や報酬率はプロジェクトによって異なるため、提案時にあらかじめ確認しておくことが大切です。

2.4 Split機能

The Daoには、保有するDAOをETHに変換することのできるSplit(スプリット)機能があります。

Splitは、以下の3つの手順で行います。

(1)The Daoのアドレスから自分のアドレスへ資金を移動させる提案をする

(2)提案したアドレスに、指示をしたETHが移動する

(3)ETHの移動から28日後、資金移動命令を出し、ETHを引き出す

 

Split機能を利用すると、The Daoに出資した資金をThe Daoの資金プールから移動させることができるため、The Daoの運営に賛同できず出資を止めたい場合などに役立ちます。ただし、The Daoが既にDAOを用いて投資を行っていた場合、ETHへの変換は不可能となるため注意が必要です。 

3 The Dao事件

 

上記で解説したように、The DaoにはDAOをETHに変換するSplit機能があり、資金をThe Daoのアドレスから移動させた後、28日後にETHとして引き出すことができます。

このSplit機能を悪用したハッカーによって引き起こされたのが、「The Dao事件」です。

The Dao事件は、2016年6月17日に発生しました。

The Daoのプログラムコードの脆弱性に目を付けた悪質なハッカーが、Split機能によってThe Daoが保管する資金を別のアドレスへ移動させてしまいました。

さらに、スマートコントラクトによって自身の残高が更新される前に報酬の送金指示を出したため、約364万ETHもの資金が盗まれてしまったのです。

しかし、事態にいち早く気づいたホワイトハッカーが同じ方法で残りのDAOを別のアドレスへ避難させたため、The Daoの被害は総資金の約3分の1である約50億円分のETHに留めることができました。

前述したように、Split機能では28日間はETHを引き出すことができません。

つまり、不正流出を図ったハッカーすらも、移動させたETHを引き出すことができないのです。

そこで、28日間という限られた時間で対処するべく、DAO保有者による議論が行われました。

対処方法として提案されたのは、「1:何もせずハッカーに資金を渡す」、「2:ソフトフォークを行い、取引を無効にする」、「3:ハードフォークを行い、取引を無効にする」の3つです。

2のソフトフォークとは、仮想通貨の仕様変更を意味します。

ソフトフォークによってハッカーが使用したアドレスを無効化することで、ハッカーがETHを引き出すのを防ぐことができますが、それと同時に、盗難されたETHを取り返すこともできません。

3のハードフォークも、仮想通貨の仕様変更のひとつです。ハードフォークを行うと、イーサリアムのブロックチェーン上の記録を遡り、ハッキングされた取引自体を無効化することができます。

イーサリアムのコミュニティ参加者のうち半数以上の賛成が条件となりますが、盗難されたETHを取り返す唯一の手段であったため、約90%の参加者が賛成しました。

「ハードフォークの実行は、イーサリアムの特徴である非中央集権の仕組みに反するのではないか」という懸念の声もある中、イーサリアムはハードフォークを実行し、ハッカーによる不正流出の無効化に成功したのです。

イーサリアムの判断により、約364万ETHの不正流出を防ぐことはできましたが、すべての参加者がこの結論に納得していたのではありません。

参加者の中には、管理者がいない非中央集権の仕組みがイーサリアムの最大の特徴であるにも関わらず、イーサリアムの判断によってハッキング被害そのものを無効化するハードフォークを実行したことに納得できない人がいたのも事実です。

そこで、The Dao事件をきっかけにイーサリアムの内部で分裂が生じ、ハードフォークに反対する参加者が、イーサリアムを基盤としたイーサリアムクラシックと呼ばれる仮想通貨を生み出しました。

The Daoでは、事件が発生する前からプログラムの脆弱性が指摘されていました。しかし、それらの指摘を軽視し、改善を図らなかったことがThe Dao事件の発生を招き、結果的にイーサリアムを分裂させてしまったといえるでしょう。

投稿者

Liquid編集部